何故か急に懸垂がしたくなったので近所の公園に行ってみた。
つい先程の事である。
最近酒ばっかり飲んで鍛錬が疎かやけど、
今何回ぐらい懸垂ができるんやろう。
まあ十回以上できたらすごいんちゃうか。
できんかったら毎日通って練習しよう。
で行ってやってみたら七回できた。
いや意外とできるやん。
十回ぐらい冬が来る前にはできるようになるんちゃうかな。
はは。余裕やん。
帰ろうと思って振り返ると腰ぐらいの高さの鉄棒があった。
素通りすればいいものを私は何故か素通りできず、
ある無謀な挑戦をしてしまったのである。
逆上がり。
私は一生で一度も逆上がりという技を成功させた事がない。
幼い頃から運動が苦手で、体育も嫌いで、
できないできないと逃げ続けているうちに、
結局その技に挑戦する機会すらなくなってしまっていた。
というわけで実に十五年ぶりの試みという事になる。
運動音痴でスポーツ嫌いだった私は、
何故か高校時代から格闘技に目覚め、
それ以来ずっと己を鍛え続けてきた。
今でも毎日拳立て伏せと腹筋を欠かす事はないし、
コンクリートや鉄柱でもって拳足を鍛えてもいる。
悲鳴を上げながら股割りに励む事もあり、
柔軟性、バランス感覚にも割と自信がある。
もはや幼い頃の貧弱さは見る影もないはずである。
つまり今この場で逆上がりができなければ、
この十五年間の鍛錬など何の意味もないという事だろう。
予期せぬ時、予期せぬ場所で、
生涯最強の敵に出会ってしまったのかもしれない。
私はひんやり冷たい鉄棒を握った。
力を込めて大地を踏み締め震脚、
スクワットで鍛えた大腿筋群で以て強く高く月を蹴り上げた。
拳立て伏せで鍛えた上腕二頭筋と大胸筋で上半身を引きつけ、
空手の呼吸法で鍛えた臍下丹田に力を込め、
レスリングで鍛えたバネを使って回転、
そしてそのつま先は放物線を!
描く事はなかった。
ずざっという音と共に地面に崩れ落ちた私。
久しぶりに砂まみれになった。
やっぱりできんやん。
逆上がり。
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